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福岡高等裁判所 昭和58年(ネ)318号 判決 1985年1月28日

控訴人

こだまタクシー株式会社

右代表者

川崎和徳

右訴訟代理人

荒木直光

被控訴人

西日本鉄道株式会社

右代表者

木本元敬

被控訴人

大牟田西鉄タクシー株式会社

右代表者

大場忠雄

右被控訴人ら訴訟代理人

山口定男

井手国夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  当審における追加的予備的請求により

1  被控訴人西日本鉄道株式会社は、控訴人に対し大牟田市新栄町一〇番地の一西鉄大牟田線新栄町駅構内の別紙添付図面赤色部分において、控訴人車両(タクシー)三台が常時客待ちのため駐車待機すること及び同駅構内C点乗り場において、被控訴人大牟田西鉄タクシー株式会社車両(タクシー)と交互に乗車稼働する機会を与えなければならない。

2  被控訴人大牟田西鉄タクシー株式会社は、控訴人の前項の営業活動を妨害してはならない。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  (請求の趣旨を訂正した一次的請求として)

(一) 被控訴人西日本鉄道株式会社(以下「被控訴人西鉄」という)は、控訴人に対し、大牟田市新栄町一〇番地の一西鉄大牟田線新栄町駅構内(以下「本駅構内」という)の別紙添付図面赤色部分において、控訴人車両(タクシー)三台が常時客待ちのため駐車待機すること及び本駅構内A点を控訴人タクシー専用の客の乗り場として控訴人タクシーにその客待ち及び客の乗り場として専用させなければならない。

(右一次的請求が認められない場合の請求の趣旨を訂正した二次的請求として)

(二) 被控訴人西鉄は、控訴人に対し本駅構内の別紙添付図面赤色部分において、控訴人車両(タクシー)三台が常時客待ちのため駐車待機すること及び本駅構内A点からB点に至る線上のいずれかを控訴人タクシー専用の客の乗り場として指定して控訴人タクシーにその客待ち及び客の乗り場として専用させなければならない。

(右二次的請求も認められない場合の当審追加の三次的請求として)

(三) 被控訴人西鉄は控訴人に対し、本駅構内の別紙添付図面赤色部分において、控訴人車両(タクシー)三台が常時客待ちのため駐車待機すること及び同構内C点乗り場において、被控訴人大牟田西鉄タクシー株式会社(以下「被控訴人大牟田西鉄タクシー」という。)と交互に乗車稼働する機会を与えなればならない。

3  被控訴人大牟田西鉄タクシーは、控訴人の前項の営業活動を妨害してはならない。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  当審追加の三次的請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決摘示事実の訂正<省略>

二  控訴人の付加した主張

1  被控訴人西鉄が、控訴人に対し本駅構内を利用させることは、決して同被控訴人の一方的恩恵的裁量的なものではなく、同被控訴人が控訴人から既に得た利得に対する対価的意義の債務である。即ち、被控訴人西鉄は、控訴人保有タクシー三台が、本駅構内において十分稼動できるよう、機会と場所を提供し、構内を管理規制することが債務として契約当事者には当然予定されていたのである。従つて、被控訴人西鉄が控訴人の営業と競業関係にある子会社の被控訴人大牟田西鉄タクシーを設立し、これに本駅構内におけるタクシー営業及び駐車占用をなさしめるとしても、それがために控訴人タクシー三台が本駅構内において十分稼動する機会と場所を妨げることは許されない。さもないと、被控訴人西鉄が控訴人に対し同被控訴人並びにその傍系会社が大牟田地区においてタクシー営業をなす場合でも、同被控訴人において事業上必要あるときでも「営業許可承認の取消はしない」という特約が実質的に空文に等しくなり、結果的に営業許可承認が取消されたと等しくなるからである。そこで、構内の「使用に関してはすべて当社(被控訴人西鉄)係員の指図を受くること」という条項が、昭和三八年二月一日付「駅構内使用承認書」(甲第一号証)に付されているとしても、ここにいう「当社係員の指図」というのには必然的にこの契約の目的趣旨から来る合理的な限界があることはいうまでもなく、係員の指図をもつて右契約の趣旨を没却することはできない。

2  ところで、本駅構内における控訴人タクシーの稼動の現状を見ると、被控訴人大牟田西鉄タクシーの車両が多数営業するようになり、控訴人タクシーは本駅構内において乗客を乗車させることができる機会が一五回に一回とか二〇回に一回と減少し、時には同被控訴人の車両が多数本駅構内に駐車して控訴人タクシーが構内に乗り入れることを難しくし、事実上控訴人タクシーを締め出す結果となつているのであつて、到底、被控訴人西鉄が控訴人に対し、債務の本旨に従つた履行をしているとは言えないのである。

3  控訴人は、従来、控訴人専用乗り場につき本構内A・B・C点等のいずれかについて被控訴人西鉄の選択的指定を求め催告して来たが、被控訴人西鉄は今日に至るも未だにその選択指定を行わない。

そこで、民法第四〇八条に基づき選択権は控訴人に属するものというべきであるから控訴人はA点を選択指定し、請求の趣旨を一次請求のとおり訂正するが、これが認められない場合に二次の請求をし、新たに三次の請求を追加するものである。

三  被控訴人らの付加した主張

1  被控訴人西鉄としては、契約書(甲第一号証)の第七条において「使用車両は常時三台とする」と明記されているとおり、控訴人に対し、そのタクシー三台が本駅構内においてタクシー利用客を拾える機会と場所を与えれば足りるのであつて、それ以上の義務を負担しているわけではない。

2  しかも、被控訴人大牟田西鉄タクシーに駐車台数六台が認められた当初、控訴人より右駐車台数六台につき不満の申出があつた事実は認められず、仮にその申出があつたとしても、旧栄町駅時代はもとより、昭和四五年四月完成した新栄町駅においても、一〇数年余りの間本駅構内におけるタクシー営業において、当事者間に何ら紛争はなく、営業台数控訴人三台、被控訴人大牟田西鉄タクシー六台ということで、車両到着順により同一乗り場より乗客を運送し、平和裡に運営されてきたことからすれば、控訴人はこれを承認したものというべきである。

3  また、控訴人より被控訴人西鉄に対し、本駅構内でのタクシー利用を減らしているので一台あたりの駐車料金につき被控訴人西鉄大牟田タクシーよりもアップ率を下げて欲しいとの要望が出され、昭和五〇年度より控訴人については被控訴人大牟田西鉄タクシーより低い料金で合意に達している。このことも、控訴人が被控訴人大牟田西鉄タクシーに対する優先権なるものがなく、同被控訴人六台、控訴人三台の営業許可台数によつて、同一乗り場での車両到着順の突き出しを、控訴人が承認していたことの証左である。

4  被控訴人大牟田西鉄タクシーは現在本駅構内に一三台分の車両待機区画を表示し、控訴人保有タクシーが常時三台駐車でき、到着順に乗客を拾えるようにしているから、控訴人が本訴請求を求める必要はない。

5  控訴人の主張する請求権は選択債権でないのは勿論、控訴人が本訴請求をなしていることから、選択権行使の催告をなした場合に当たらず、また、請求棄却の判決を求めたことが選択権不行使と評価さるべきものではない。

第三  証拠<省略>

理由

一控訴人がタクシー営業を目的とする会社であり、被控訴人西鉄が鉄軌道(電車)自動車(バス)による旅客の輸送等を主たる営業とする会社であり、被控訴人大牟田西鉄タクシーがタクシー営業を目的とする会社で被控訴人西鉄の出資により設立されたいわゆる子会社であること、控訴人の前身大牟田鹿田タクシーが昭和二七年頃より西鉄電車大牟田線栄町駅舎正面に営業所を新設し被控訴人西鉄より栄町駅構内タクシー営業及び駐車占用(常時三台)の承認を受けて同駅の乗降客の輸送にあたつてきたこと、控訴人が昭和三七年大牟田鹿田タクシーから分離し同会社から栄町駅前営業所とともに栄町駅構内タクシー営業を承継して同駅乗降客の輸送にあたつてきたこと、当時の控訴会社代表者二又駒四郎は、久留米地区でもタクシー業を営み、久留米鹿田合同タクシーの代表者でその株主であつたが、昭和三七年頃被控訴人西鉄が子会社久留米西鉄タクシーを創設した際、久留米鹿田合同タクシーの営業権を久留米西鉄タクシーに譲渡し、更に、昭和三八年二月、被控訴人西鉄に対し、同被控訴人から左記(一)ないし(四)の条件で栄町駅構内におけるタクシー営業及び駐車占用の承認を受けるのと引換えに、久留米不動産株式会社(自己が代表取締役でその同族で全株式を保有し、久留米西鉄タクシーの営業所用地を所有している会社)の株式を譲渡したこと、右条件というのは、(一)使用料月額四五〇〇円(二)営業台数三台(三)期間従前の約定(期間一年)に拘らず期間を更新し営業を継続させる。(四)駅の移転改築改装等の必要が生じた場合、被控訴人西鉄とその傍系会社が大牟田地区においてタクシー営業をなすことある場合、被控訴人西鉄において事業上必要あるときにも営業許可承認の取消はしない、ということであつたことは当事者間に争いがない。

<証拠>によると、昭和三八年二月二〇日被控訴人西鉄取締役社長高田又三郎が控訴会社取締役社長二又駒四郎に交付した構内タクシー営業許可証明書の裏面に「念証」として記載された文面には、被控訴人西鉄の傍系たる久留米タクシー株式会社が久留米不動産株式会社の株式を買収するに際して控訴会社社長二又駒四郎はこれに協力して買収を円滑ならしめた経緯により本許可は許可会社(被控訴人西鉄)と申請会社(控訴人)との間に互恵的に営業許可をなしたものであり、被控訴会社西鉄並びにその傍系会社が大牟田地区において営業をなすことある場合といえども承認の取消はしない旨明記されていることが認められる。

右認定した事実によると、被控訴人西鉄は、控訴会社の当時の代表取締役であつた二又駒四郎から久留米不動産株式会社の株式の譲渡を受けるのと引換えに互恵的に控訴会社に栄町駅構内におけるタクシー営業及び駐車占用を承認したものであるから、被控訴人西鉄は控訴人が営業台数三台を以て栄町駅構内及びその移転した駅構内でタクシー営業及び駐車占用するにつき、右営業許可承認時における態様を下らない範囲で、場所と機会を与える債務があるものというべきである。従つて、被控訴人西鉄が控訴人以外の者にも同駅構内におけるタクシー営業を許可するには、控訴人の承認があるか、同駅構内でのタクシー乗客が多く控訴人の営業台数三台(後記のとおり、控訴人の保有タクシー二七台のうち同駅構内に駐車占用しうる台数のことであり、特定の三台だけが駅構内に入れるというのではない。)ではその需要に応じきれず、他社のタクシーを営業させても控訴人の利益を侵すことのないような場合のほか、合理的な事由のある場合に限られるというべきである。けだし、そう解しなければ、被控訴人西鉄が自らタクシー営業を営む場合は勿論その子会社にタクシー営業許可を与えたような場合に、これに対して無限定的に営業台数を認めることが許されると控訴人が本駅構内で従前どおりに互恵的に与えられた営業利益を挙げる機会は失われ、被控訴人西鉄はその債務の本旨に従つた履行をしていると目するとことができないからである。なお、<証拠>によると、被控訴人西鉄は控訴人に対し駅構内の使用に関してはすべて当社係員の指図を受くべき旨の条項を付して駅構内の使用承認をなしていることが認められるが、法令や行政指導などの規制上やむを得ない合理的事情がある場合を除けば、控訴人の承認がなければ、被控訴人西鉄の構内管理規則や係員の指示をもつて控訴人に対する前記債務の内容を実質的に変えることは許されないものというべきであり、被控訴人西鉄が控訴人に対し互恵的に本駅構内でのタクシー営業を許可するに至つた前記の目的趣旨営業許可当時の営業の態様等から来る合理的な限界があることは控訴人主張のとおりということができる。

<証拠>によると、昭和四五年五月一日、その当時の被控訴人西鉄観光事業部長秋重昌司は、昭和三八年二月二〇日前記構内タクシー営業許可証明書の裏面に付された念書があるのに気がつかなかつたか、或はこれを無視して控訴人に対し、被控訴人西鉄が営業上の必要があるときは本件タクシー営業許可に関する契約をいつでも解約できる内容の契約書(甲第三号証)を作成して控訴人に押印を求めたが、控訴人は本件タクシー営業承認が念書記載の如く互恵的になされた経緯を書面にして異議を申し出たところ、被控訴人西鉄は何等の反論もなさず、右契約書に押印を求めることを撤回した事実が認められ、これに弁論の全趣旨及び後記認定の事実を併せると、日時の経過により、被控訴人西鉄の担当者は、控訴人に対してなされたタクシー営業許可承認が互恵的になされたことを失念し、単に、控訴人から使用料を徴して一方的に営業許可申請を承認している恩恵的なものであるかの如く考えていた嫌いは否み難い。

二しかして、控訴人が栄町駅構内におけるタクシー営業権に基づき昭和三八年二月から昭和四二年まで同構内で独占的にタクシー営業をなしてきたこと、昭和四二年になり被控訴人西鉄は、控訴人営業と競業関係にある被控訴人大牟田西鉄タクシーを創設し同被控訴人にも栄町駅構内におけるタクシー営業及び駐車を認め、同被控訴人には控訴人の二倍の台数を認めたこと、また被控訴人西鉄は昭和四五年西鉄大牟田線の栄町駅を現在の位置(大牟田市新栄町一〇番地の一)に移転し新駅名を新栄町駅と改めたが、その後同年五月に至り新栄町駅構内タクシー営業権及び駐車占用権について、控訴人には営業台数三台、承認台数六台としたが、被控訴人大牟田西鉄タクシーには営業台数六台、承認台数一五台を認めたことは当事者間に争いがない。

そして右当事者間に争いのない事実と、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

控訴人はその頃、車両二七台位を保有し被控訴人西鉄から許可を受けた営業台数三台(営業台数三台とは、駅構内に駐車待機しうる車両台数であり、特定の車両三台だけが駅構内に駐車待機しうるというのではない。)のタクシーをもつて、昭和三八年二月以降栄町駅構内で独占的にタクシー営業をなしていたが、昭和四二年八月五日から被控訴人大牟田西鉄タクシーが栄町駅構内でタクシー営業をなすに当り、被控訴人栄町駅駅長立会のもとで、控訴人側及び被控訴人大牟田西鉄タクシー側の各代表者が話合い、同一の乗り場を定め、控訴人タクシーと被控訴人大牟田西鉄タクシー各三台が突き出し方式で交互に乗客を乗せることを定めた。控訴人は右の取決め自体に不満であつたが、やむを得ないこととして同駅長の指示に従つた形で右を承諾したものの、被控訴人大牟田西鉄タクシーは車両六八台位を保有しており、同年一〇月頃、被控訴人西鉄から営業台数六台の承認を受け、控訴人に対し、控訴人の営業台数三台、被控訴人大牟田西鉄タクシー営業台数六台の突き出し方式による運用を要求してきた。控訴人は右割合の突き出し方式には承服できず、被控訴人西鉄に抗議したものの無視されたまま、事実として控訴人営業台数三台、被控訴人大牟田西鉄タクシー営業台数六台による突き出し方式が行われていた。昭和四五年四月二八日、栄町駅は新栄町駅と呼称を改めて改築移転したが、(本駅構内は旧駅構内と比較しタクシーの駐車占用しうる区域が広くなつた。)被控訴人西鉄は、控訴人に対し営業台数三台、承認台数六台を、被控訴人大牟田西鉄タクシーに対し営業台数六台、承認台数一五台を認め、別紙添付図面赤色部分の本駅構内C点を乗り場と定めた。

(承認台数は料金算定上意味はあつても営業上特段の意味はないものである)。ところが、被控訴人大牟田西鉄タクシーは、本駅構内に駐車待機しうる営業台数を無視し同駅構内に一五台から二〇台のタクシーを駐車待機させて、同構内を独占することが頻発するに至り、事実上控訴人タクシーが同構内に入つて駐車待機する機会を奪う場合が多くなつた。そこで、控訴人は被控訴人西鉄に対し、控訴人タクシーが本駅構内で営業活動が出来るよう善処方を要望したが、被控訴人西鉄は、被控訴人大牟田タクシーが被控訴人西鉄全額出資の子会社であることもあるため、被控訴人大牟田タクシーの代表者に対し控訴人タクシーが本駅構内に駐車待機して営業できるよう注意したのみで、その後の状況が改善された訳でもないのにそのまま放置し、被控訴人大牟田西鉄タクシーの本駅構内における独占的ともみれる駐車占用を何らの規制も加えず黙認した。そして本訴提起後の昭和五七年四月頃に至つて、被控訴人大牟田西鉄タクシーが自ら本駅構内の路面にタクシーの駐車待機する場所としてペンキで一三個の区画を表示し、控訴人タクシーが三台駐車待機して本駅構内でタクシー営業をなしうるよう運用を始めて現在に及んでいる。そのため、控訴人が昭和三八年二月栄町駅構内で独占的になしていたタクシー営業時に比較すれば勿論のこと、昭和四二年八月から、被控訴人大牟田西鉄タクシーが設立されて同被控訴人と競合的に栄町駅構内で営業台数三対三の割合で交互に突き出し方式でタクシー営業をやつていた当時に比較しても、右駅構内における控訴人のタクシー営業収益は著しく減少している。また、大牟田市所在の三井系企業の縮小、撤収に伴い、本駅構内でのタクシー降乗客も少くなつている。

以上の事実を認めることができる。<証拠>中右認定に反する部分は措置できない。

三被控訴人らは、控訴人は、控訴人営業台数三台、被控訴人大牟田西鉄タクシー営業台数六台の割合における同一乗り場での車両到着順の突き出し方式によるタクシー営業を承認していた旨(当審における被控訴人らの付加主張2、3)主張し、<証拠>中には右主張に添う供述が認められるが、前記一、二項の認定判断に徴し、にわかに措信できない。もつとも、<証拠>によると、控訴人の前記営業台数及び承認台数の一台当りの本駅構内使用料金は、被控訴人大牟田西鉄タクシーのそれに比較し若干低額であることが認められるが、<証拠>によると、その使用料が控訴人において低額であるのは、控訴人タクシーか本駅構内で事実上十分な営業をなし得ていなかつたため、控訴人の要望を容れて被控訴人西鉄が使用料増額を差し控えたによるものであり、控訴人がその営業台数三台、被控訴人大牟田西鉄タクシーの営業台数六台を以て車両到着順の突き出し方式によるタクシー営業を承認したからによるものではないことが認められるのであり、被控訴人の右主張は採ることができない。

四以上に認定判断したところによると、被控訴人西鉄は控訴人に対しその営業台数三台が本駅構内に駐車待機してタクシー営業をなさしめる債務があること、その債務としては、本件タクシー営業の許可を与えた当初においては、営業台数三台を以て栄町駅構内で独占的にタクシー営業をなさしめることにあつたと認むべきであるが、控訴人はその後、被控訴人大牟田西鉄タクシーが本駅構内でタクシー営業を始めるに際し、控訴人タクシー三台、被控訴人大牟田西鉄タクシー三台が交互に突出し方式で乗客を乗せる方式には不満ながらとは言え、やむを得ないこととして承諾したものとみるべきであるから、被控訴人西鉄は控訴人が、右の方式において本駅構内で控訴人タクシー三台が常時客待ちのため駐車待機してタクシー営業をなす場所と機会を与えるべき債務があるというべきである。ところが前記認定のとおり被控訴人西鉄は、右三台を越えた営業台数六台につき、許可すべき合理的事由もないのに、被控訴人大牟田西鉄タクシーに対し、営業台数六台、承認台数一五台を以て本駅構内でタクシー営業をなすことを許可し控訴人の本駅構内でのタクシー営業と競業させ(被控訴人西鉄が被控訴人大牟田西鉄タクシーに対し、控訴人が同意していない営業台数六台を以て本駅構内でタクシー営業をなさしめること自体において債務不履行があり、控訴人の得べかりし利益につき損害を与えているということができる。)、事実におしては、被控訴人大牟田西鉄タクシーが営業台数六台を超えて本駅構内に駐車待機して控訴人タクシーが本駅構内に駐車待機してタクシー営業をなす場所と機会を侵している状況を放置、黙認していると認められ、債務の本旨に従つた履行をなしていないものというべきである。被控訴人大牟田西鉄タクシーが本駅構内に一三台の車両待機区画を表示し、控訴人タクシーが常時そのうちの三台に駐車でき、到着順に乗客を拾えるようにしているからと言つて、被控訴人西鉄が控訴人に対する右債務を完全に履行していると言えないことは前叙の認定判断から明らかである。そして、被控訴人大牟田西鉄タクシーが、控訴人が本駅構内でなすタクシー営業を妨害していることは前叙認定のとおりである。

五以上説示のとおり、控訴人の本訴請求は三次的請求を求める限度において理由があるが、専用の客の乗り場を控訴人に専用させることを求める控訴人の一次的請求及び二次的請求は、前叙のように、被控訴人大牟田西鉄タクシーの車両と交互の突き出し方式でタクシー営業をなす限度で控訴人は同意していたものであるから、失当として棄却を免れないものというべきである。

よつて、控訴人の一次的請求、二次的請求(これは当審において請求の趣旨を訂正し一次的請求と二次的請求となしたものである。)を棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、当審で追加された三次的請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条、第八九条、第九三条を適用し、なお、仮執行宣言を付するのは相当ではないので仮執行宣言の申立はこれを却下することとし主文のとおり判決する。

(西岡德壽 岡野重信 松島茂敏)

別紙添付図面<省略>

《参考・第一審判決理由》

原告がタクシー営業を目的とする会社であり、被告西鉄が鉄軌道(電車)自動車(バス)による旅客の輸送等を主たる営業とする会社であり、被告大牟田西鉄タクシーがタクシー営業を目的とする会社で被告西鉄の出資により設立されたいわゆる子会社であること、原告の前身大牟田鹿田タクシーが昭和二七年頃より西鉄電車大牟田線栄町駅舎正面に営業所を新設し被告西鉄より栄町駅構内タクシー営業及び駐車占用(常時三台)の承認を受けて同駅の乗客の輸送にあたつてきたこと、原告が昭和三七年大牟田鹿田タクシーから分離し同会社から栄町駅前営業所とともに栄町駅構内タクシー営業を承継して同駅乗降客の輸送にあたつてきたことは当事者間に争いがない。

又昭和三八年二月に原告と被告西鉄との間に、当時の原告代表取締役二又駒四郎が代表取締役をしている久留米不動産株式会社の株式を被告西鉄の子会社の久留米西鉄タクシーに譲渡するのと引換えに、被告西鉄は原告に対し栄町駅構内におけるタクシー営業及び駐車占用使用を、使用料月額四五〇〇円、営業台数三台、期間は従前の約定(期間一年)に拘らず期間を更新し営業を継続させる、駅の移転改装等の必要が生じた場合、被告西鉄並びにその傍系会社が大牟田地区においてタクシー営業をなすことある場合、被告西鉄において事業上必要あるときといえども営業許可承認の取消はしないとの条件で承諾する旨の合意が成立したことは当事者間に争いがない。

原告は右の合意により、被告西鉄は原告タクシー三台が本構内で十分稼働できるように、即ちタクシー利用客を十分拾える機会と場所を実質的に提供する債務を負担している旨主張し、そのために被告西鉄は被告大牟田西鉄タクシーの本駅構内における営業を停止するかあるいは本駅構内に原告タクシー専用の乗り場を設けるべきである旨主張する。

前記争いのない事実と<証拠>を総合すると、原告の前身の大牟田鹿田タクシーは昭和二七年頃被告西鉄から西鉄大牟田線栄町駅構内タクシー営業及び駐車占有(常時三台)の承認を受けたこと、昭和三七年四月に原告が大牟田鹿田タクシーから分離し原告は同会社から栄町駅構内タクシー営業を承認したこと、昭和三八年一月二一日に原告は被告西鉄に対し栄町駅構内使用の承認を求め、同年二月一日に被告西鉄からその承認がなされたこと、その承認書には使用に関してはすべて被告西鉄の係員の指図を受くること等の条項が付されていること、同月二〇日には被告西鉄から原告に対し「構内タクシー営業所許可証明書」が交付され、それには念証として「1許可会社の傍系たる久留米西鉄タクシー株式会社が久留米市内久留米不動産株式会社の株式を買収するに際して申請会社社長二又駒四郎はこれに協力して買収を円滑ならしめた経緯により本許可は許可会社と申請会社との間に互恵的に前記のとおり許可したものである。2申請会社の上記構内タクシー営業許可については駅構内使用承認書に掲げる条件中第五項の期間の定めに拘わらず同第八項に該当する事項がない限り当社はこの期間を更新し営業を継続させる。又駅の移転改装等の必要が生じた場合及び当社並びにその傍系会社が大牟田地区においてタクシー営業をなすことある場合、例えば同八項の当社において事業上必要あるときといえども承認の取消はしない。」旨記載されていること、原告はそれ以後も栄町駅構内においてタクシー営業を続けたが昭和四二年に被告西鉄の子会社の被告大牟田西鉄タクシーが設立され被告西鉄より栄町駅構内において六台の駐車が認められ、原告と被告大牟田西鉄タクシーとが同駅構内において乗り場は一か所とし突き出し方式によりそれぞれ営業したこと、昭和四五年四月に栄町駅が同所から北へ約三〇〇メートルの地点に移転し新栄町駅ができたが新栄町駅構内においても原告と被告大牟田西鉄タクシーとは従前どおり乗り場を一か所として同駅構内において営業を続けたこと、昭和五五年一月になるまで原告から被告西鉄に対し新栄町駅構内のタクシー営業に関し異議が出たこともないことを認めることができ<る。>

右事実によれば、原告と被告西鉄との間に昭和三八年二月に成立した合意により、原告の主張するように被告西鉄が原告に対し本駅構内に原告のためにその専用の乗り場を設けるべき義務を負担しているものとは認め難いところである。

又原告が西鉄大牟田線新栄町駅構内において営業することが妨害されているものとも認められない。

従つて被告両名は原告に対し原告主張の義務を負担していないことになる。

よつて原告の本訴請求はいずれも失当として棄却を免れず、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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